こんにちは
島村竜一です。
日々の業務で発生する経費申請。領収書の貼り付け、申請書の作成、上長への提出、そして経理担当者の確認と処理。この一連の作業に、多くの時間と手間が費やされていると感じていませんか?
手入力によるミスや、申請の遅れは、ビジネスの生産性を低下させる要因になりかねません。
もし、これらの面倒な経費申請プロセスを、簡単な操作だけで自動化できるとしたらどうでしょうか。
この記事では、クラウド会計ソフトの「freee会計」と、ノーコード自動化ツール「n8n(エヌエイトエヌ)」をAPI連携させ、経費申請業務を劇的に効率化する具体的な方法を、設定手順から活用シナリオまで徹底的に解説します。プログラミングの専門知識がなくても、この記事を読めば、自社の業務を自動化する第一歩を踏み出すことができます。
目次
freeeとn8nの連携で経費申請はここまで楽になる
freee会計とn8nを連携させることで、これまで手作業で行っていた経費申請のプロセスが劇的に変化します。
具体的にどのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。
まず最大のメリットは、手入力作業からの解放です。例えば、チャットツールや専用フォームに入力された経費情報を、n8nが自動的に読み取り、freee会計に経費申請データとして登録します。これにより、担当者がfreeeの画面を開いて一件ずつ手で入力する手間が完全になくなります。
次に、申請から承認までのスピードが格段に向上します。申請データが即座にfreee会計に登録されるため、承認者はリアルタイムで内容を確認できます。さらに、承認や差戻しといったアクションが行われた際に、n8nを介して申請者に自動で通知を送る仕組みも構築可能です。これにより、確認漏れや連絡の遅延を防ぎ、経費精算全体のリードタイムを大幅に短縮できます。
そして、ヒューマンエラーを限りなくゼロに近づけられる点も大きな魅力です。
手作業による転記ミスや入力漏れは、経理業務において常に付きまとう課題です。自動化されたワークフローでは、システムがルール通りに正確なデータ転記を行うため、これらの人為的なミスを根本からなくすことができます。
このように、freeeとn8nの連携は、単なる作業の置き換えではありません。経費申請に関わるすべての従業員の負担を軽減し、より生産的な業務に集中できる環境を生み出す、強力な業務改善ソリューションなのです。
そもそもfreee会計とn8nとはどんなツール?
連携の具体的な話に入る前に、まずは「freee会計」と「n8n」がそれぞれどのようなツールなのかを簡単におさらいしておきましょう。
freee会計は、個人事業主から中小企業まで幅広く利用されているクラウド会計ソフトです。日々の取引入力から決算書の作成まで、会計業務を効率化するための機能が豊富に搭載されています。特に、銀行口座やクレジットカードとの同期機能は強力で、多くの手入力作業を削減してくれます。経費精算機能も充実しており、従業員がスマートフォンアプリから簡単に申請できるなど、使いやすさに定評があります。
一方のn8n(エヌハチエヌ)は、様々なWebサービスやアプリケーションを連携させ、業務プロセスを自動化するためのツールです。「ワークフロー自動化ツール」や「iPaaS(Integration Platform as a Service)」と呼ばれる分野の製品で、プログラミングの知識がなくても、画面上でブロック(ノード)を繋いでいくだけで、直感的に自動化の仕組みを構築できるのが大きな特徴です。オープンソースであるため、自社のサーバーにインストール(セルフホスト)すれば、無料で利用を開始できる点も魅力の一つです。
つまり、「会計業務のプロフェッショナルであるfreee会計」と「様々なツールを繋ぐハブとなるn8n」、この2つを組み合わせることで、経費申請という特定の業務プロセスを、自社の運用に合わせて柔軟に自動化することが可能になるのです。
なぜfreeeとn8nの連携が経費申請の自動化に有効なのか
freee会計とn8nの組み合わせが、なぜこれほど経費申請の自動化に効果的なのでしょうか。その理由は、両ツールが持つそれぞれの強みにあります。
第一に、freee会計が外部連携のためのAPIを公開していることが挙げられます。API(Application Programming Interface)とは、ソフトウェアやサービスが、外部のプログラムと情報をやり取りするための「窓口」のようなものです。freeeはこのAPIを通じて、経費申請の作成、取得、更新、承認といった操作を外部から行えるようにしています。このAPIがあるからこそ、n8nのようなツールがfreeeのデータを安全に操作できるのです。
第二に、n8nが持つ圧倒的な汎用性と柔軟性です。n8nには、特定のサービス専用の連携機能(ノード)が数多く用意されていますが、たとえ専用ノードがないサービスであっても問題ありません。「HTTP Requestノード」という万能な機能を使えば、APIを公開しているほとんどすべてのWebサービスと連携が可能です。freee会計もこの方法で連携でき、公式APIで提供されているあらゆる操作をn8nのワークフローに組み込むことができます。
最後に、ノーコード/ローコードで複雑な処理を実現できる点です。従来のシステム連携では、専門のエンジニアがプログラムを書く必要がありました。しかしn8nを使えば、データの取得、加工、条件分岐、繰り返しといった処理を、画面上の操作だけで組み立てられます。「Slackで特定の絵文字が押されたら申請を開始する」「Googleフォームの回答内容に応じて経費科目を自動で振り分ける」といった、自社独自の細かいルールに基づいた自動化も、比較的簡単に実現できるのです。
これらの理由から、freee会計の強力な会計機能と、n8nの柔軟な連携能力を組み合わせることは、経費申請の自動化において非常に有効なアプローチと言えます。
freeeとn8nをAPI連携させるための具体的な設定手順

ここからは、実際にfreee会計とn8nをAPI連携させるための具体的な手順を解説します。設定は大きく分けて3つのステップで進めます。
- freee側でAPIを利用するための準備
- n8nのHTTP Requestノードで認証情報を設定
- 経費申請データをfreeeへ送信するワークフローの作成
この手順通りに進めれば、誰でも連携の第一歩を踏み出せます。
まずはfreee側でAPI利用の準備をしよう
最初に、n8nがfreeeのAPIにアクセスできるよう、freee側で許可設定を行います。これは、n8nというアプリケーションに対して「我が社のfreeeデータにアクセスしても良いですよ」という許可証を発行するようなイメージです。
- freee for Developersにログイン: まずはfreeeの開発者向けサイト「freee for Developers」にアクセスし、お使いのfreeeアカウントでログインします。
- アプリの新規作成: ログイン後、「アプリ管理」メニューから「新しいアプリを作成」ボタンをクリックします。
- アプリ情報の入力: アプリ名(例: n8n連携用)、概要などを入力します。これらは管理しやすい名前で構いません。
- リダイレクトURIの設定: ここが重要なポイントです。「認可」セクションにある「リダイレクトURI」の欄に、お使いのn8n環境のURLを入力します。n8nのOAuth2認証プロセスで必要となるURLで、通常は
https://[あなたのn8nのドメイン]/rest/oauth2-credential/callbackという形式になります。 - 権限の設定: 「利用可能なAPI」セクションで、このアプリに許可する操作範囲を選択します。経費申請を行うためには、「経費申請」「取引」「勘定科目」など、関連する項目の読み取りと書き込みにチェックを入れましょう。
- Client IDとClient Secretの取得: すべての設定を保存すると、「Client ID」と「Client Secret (秘密鍵)」が発行されます。これらは後ほどn8nの設定で使用する非常に重要な情報なので、安全な場所にコピーしておいてください。
これでfreee側の準備は完了です。n8nがfreee APIに接続するための「鍵」が手に入りました。
n8nの要となるHTTP Requestノードで認証を設定する方法
次に、n8nの画面に移り、先ほど取得した「鍵」を使ってfreeeとの接続設定を行います。この認証設定は一度行えば、以降のワークフローで何度も再利用できます。
- n8nで新規ワークフローを作成: n8nにログインし、新しいワークフローを作成します。
- HTTP Requestノードを追加: 画面左のノードパネルから「HTTP Request」ノードを見つけて、ワークフローのキャンバス上にドラッグ&ドロップします。
- 認証情報(Credential)の作成: ノードの設定画面を開き、「Authentication」のドロップダウンから「OAuth2 API」を選択します。次に、「Credential for OAuth2 API」の欄で「- Create New -」を選びます。
- Credential詳細情報の入力: 新しいウィンドウが開くので、freeeのAPI仕様に合わせて以下の情報を入力していきます。
- Credential Name: 管理しやすい名前(例: freee OAuth2)を入力します。
- Grant Type: 「Authorization Code」を選択します。
- Authorization URL:
https://accounts.secure.freee.co.jp/public_api/authorizeを入力します。 - Access Token URL:
https://accounts.secure.freee.co.jp/public_api/tokenを入力します。 - Client ID: freeeで取得した「Client ID」を貼り付けます。
- Client Secret: freeeで取得した「Client Secret」を貼り付けます。
- Scope:
read writeと入力します。(APIで許可する操作範囲を指定)
- 認証の実行: 全て入力したら、ウィンドウ下部にある「Sign in with freee」のようなボタンをクリックします。するとfreeeのログイン・認証画面に遷移するので、許可を求められたら「許可する」をクリックします。
- 接続の確認: n8nの画面に戻り、「Connection successful!」と表示されれば認証設定は成功です。作成したCredentialを保存します。
これでn8nからfreee APIへ、安全にリクエストを送る準備が整いました。
経費申請データをfreeeへ送信するワークフローを作成する
認証設定が完了したら、いよいよ経費申請を自動化するワークフローを作成します。ここでは例として、「Webhookでデータを受け取り、freeeに経費申請を作成する」というシンプルな流れを解説します。
- トリガーノードの設置: ワークフローの起点となるトリガーを設定します。今回は外部からデータを受け取るため、「Webhook」ノードを設置します。Webhookノードは、固有のURLを生成してくれるので、このURLにデータを送信することでワークフローが起動します。
- HTTP Requestノードの設定: 次に、先ほど認証設定を行った「HTTP Request」ノードをWebhookノードに繋ぎ、以下の設定を行います。
- Request Method: データを新しく作成するので「POST」を選択します。
- URL: freee APIの経費申請作成エンドポイントである
https://api.freee.co.jp/api/1/expense_applicationsを入力します。 - Send Body: 「On」に設定します。
- Body Content Type: 「JSON」を選択します。
- 送信データ(Body)の作成: 「Body」の入力欄に、freeeに送る経費申請のデータをJSON形式で記述します。ここでn8nの強力な機能である「Expressions」が役立ちます。Expressionsを使うと、トリガー(Webhook)で受け取ったデータを動的に埋め込むことができます。
{ "company_id": 12345, "title": "{{ $json.body.title }}", "issue_date": "{{ $json.body.date }}", "expense_application_lines": [ { "transaction_date": "{{ $json.body.date }}", "amount": {{ $json.body.amount }}, "description": "{{ $json.body.description }}" } ] }上記の例では、Webhookで受け取ったJSONデータ内のtitle,date,amount,descriptionといった値を、freee APIのリクエストボディに埋め込んでいます。company_idは自社のIDを事前に調べて入力しておく必要があります。 - ワークフローのテストと有効化: 設定が完了したら、実際にWebhook URLにテストデータを送信してみましょう。n8nの「Execute Workflow」ボタンを押して待機状態にし、別のツールからデータを送信します。ワークフローが正常に実行され、freee会計に新しい経費申請が作成されていれば成功です。最後に、ワークフローを「Active」にすれば、24時間365日、自動で経費申請を受け付け、登録してくれるようになります。
こんな使い方も可能に freeeとn8nによる経費申請自動化シナリオ

基本的な連携方法がわかったところで、さらに実用的な自動化シナリオをいくつかご紹介します。n8nの柔軟性を活かせば、自社の業務フローに合わせた様々な自動化が可能です。
Slackでの申請内容を自動でfreeeに登録する
多くの企業でコミュニケーションの中心となっているSlackを、経費申請のインターフェースとして活用するシナリオです。
従業員は、わざわざfreeeを開く必要はありません。Slackの特定のチャンネルで「/keihin 金額 用途」のようなスラッシュコマンドを入力するか、所定のフォーマットでメッセージを投稿するだけです。n8nの「Slack Trigger」ノードがこの投稿を検知し、メッセージ内容を解析。そこから金額や用途といった情報を抽出し、freee会計のAPIを呼び出して経費申請を自動で作成します。申請が完了したら、Slackに「経費申請を受け付けました」と返信することも可能です。これにより、従業員は普段使い慣れたツールから、シームレスに経費申請を行えるようになります。
Googleフォームからの申請をfreeeに直接転記する
アルバイトや外部スタッフなど、freeeのアカウントを持っていないメンバーからの経費申請にも対応できるのが、このシナリオです。
まず、経費申請に必要な項目(日付、金額、内容、領収書の添付など)を盛り込んだGoogleフォームを作成します。n8nの「Google Form Trigger」ノードを使えば、このフォームに新しい回答が送信されるたびにワークフローを自動で起動できます。n8nはフォームの回答内容を取得し、それをfreee APIが要求するデータ形式に整形して、経費申請として登録します。領収書ファイルが添付されている場合は、Google Driveにアップロードし、そのリンクを申請の備考欄に記載するといった応用も可能です。これにより、アカウント管理の手間を増やすことなく、申請受付の窓口を一本化できます。
承認されたら関係者に自動で通知を送る
経費申請のプロセスは、申請して終わりではありません。承認されたのか、それとも差し戻されたのか、申請者はその後のステータスを気にしています。この承認フローの通知も自動化できます。
例えば、n8nで定期的にfreee APIをチェックするワークフローを構築します。このワークフローは、特定の経費申請のステータスが「承認済み」に変わったことを検知すると、自動的に次のアクションを実行します。申請者本人にはSlackのダイレクトメッセージで「経費申請が承認されました」と通知。同時に、経理担当者のチャンネルには「承認済みの申請があります。振込処理をお願いします」といった具体的な指示を通知します。これにより、関係者間のコミュニケーションロスがなくなり、申請から支払いまでのプロセス全体がスムーズに進行します。
導入前に知っておきたいfreeeとn8nの利用条件
freeeとn8nの連携による自動化は非常に強力ですが、導入前に知っておくべき利用条件がいくつかあります。
まずfreee会計側ですが、APIを利用するためには、対応する料金プランの契約が必要です。すべてのプランでAPIが利用できるわけではなく、一般的に法人向けの「スターター」プランや、それ以上のプランが必要となります。自社の契約プランがAPI利用の対象となっているか、事前にfreeeの公式サイトで確認しておきましょう。また、APIの利用には一定のリクエスト数制限が設けられている場合があるため、極端に高頻度なアクセスを行うワークフローを設計する際は注意が必要です。
次にn8nについてです。n8nはオープンソースソフトウェアであり、自社のサーバー環境にインストールして利用する「セルフホスト」であれば、基本的に無料で無制限にワークフローを作成・実行できます。ただし、その場合はサーバーの構築やメンテナンス(アップデート、セキュリティ対策など)を自社で行う必要があり、そのための技術知識や維持コストが発生します。もしサーバー管理の手間を省きたい場合は、n8nが公式に提供しているクラウドサービス「n8n Cloud」を利用する選択肢もあります。こちらは有料ですが、手軽に始めることができ、常に最新の状態で利用できるメリットがあります。
自社の状況(技術力、予算、求めるセキュリティレベルなど)に合わせて、最適な利用形態を選択することが重要です。
まとめ
本記事では、クラウド会計ソフトfreee会計と、ワークフロー自動化ツールn8nをAPI連携させ、面倒な経費申請業務を自動化するための全手順を解説しました。
freeeが提供する強力なAPIと、n8nの持つ柔軟な連携機能を組み合わせることで、以下のようなメリットが生まれます。
- 手入力作業からの解放による業務効率化
- 申請から承認までのスピードアップ
- ヒューマンエラーの削減による正確性の向上
- SlackやGoogleフォームなど、既存ツールを活用した柔軟な申請フローの構築
はじめは設定に少し戸惑うかもしれませんが、一度ワークフローを構築してしまえば、あとはシステムが24時間365日、あなたに代わって働き続けてくれます。手作業の繰り返しから解放され、より創造的で付加価値の高い仕事に時間を使うことは、企業全体の生産性を向上させる上で不可欠です。
この記事を参考に、ぜひあなたの会社の経費申請業務の自動化にチャレンジしてみてください。その一歩が、バックオフィス業務のDXを大きく前進させるきっかけとなるはずです。
いかがでしたでしょうか。freee会計とn8nの連携は、経費申請だけでなく、請求書発行や取引データの登録など、様々な会計業務に応用が可能です。この記事が、あなたの会社の業務効率化のヒントになれば幸いです。
ではまた次の記事でお逢いしましょう。
仕事の生産性をあげるためさまざまな方法を試しました。その結果UiPathにたどり着き現在UiPathを使った業務効率化の開発、講師の仕事をしています。
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